103:三年、経ったら(03/11/20)
近所にエリちゃんという女の子がいた。目がクリクリとした可愛らしい女の子、だった気がする。記憶が曖昧なのは、もうかれこれ二十五年以上も昔の話しだし、会わなくなった後、一回も再会したり写真を見ることもなかったからだ。
通う幼稚園は一緒だったし、なんだか物心ついたときから、エリちゃんはずっと普通にお友達だった気がする。でも、やっぱり彼女の記憶は酷く曖昧だ。
エリちゃんには、三つ年上のお兄さんがいた。こちらもエリちゃんに負けず劣らずのクリッとした目であった。
当時のあたいは、近所の家の庭先くらい平気で侵入し、柿をもぎり食べ、穴を掘ってビー球遊びに興じていたりした。まあ、近所の子供はみんなそんな感じだったし、今のように高い塀で覆われた家なんて、皆無だったからそれは凄く普通のことだった。そして、それは子供同士が知り合う絶好の機会にもなっていた。
エリちゃんのお兄さんは、なぜか家に居ることが多く、あまり他の子供と一緒に出歩かないタイプであった。必然的に、その庭に遊びに行かねば、お兄さんとは遊べなくなっていた。庭先、軒先にて彼の持ち物である超合金のロボットなどを弄くるのが、彼とのコミュニケーションであった。
その記憶の軒先に、エリちゃんもいつもいた気がする。
エリちゃんの事、好きなんじゃないの?
他の子供が庭先を通過するときに、囃し立てるようにいうが、どう考えてもそのような結論に落ち着かなく、あたいは首を傾げた。お兄さんの持ち物である、合体ロボの胸の部分のほうが、どう考えても好きなのだ。二号機である。一号機から、頭・胸・腹・太もも・足首と五号機まで揃っている。バンドやるならボーカルよりギターなど、あたいの二番目好きはここに回帰してくるのだろうか。そして巨乳好きもここに回帰してくるのであろうか。きっとそうだろう。
しかしそんな時、どうもエリちゃんはまんざらでもなかった様子なのだ。もてる男は辛い。お兄さんはそんな妹を気にしてか、やたらとあたいに気を使ってくれた。先の合体ロボも、二号機はあたい専用だったし、時には四号機も貸してくれた。あたいの太もも好きを見抜いてのこととは考え難い。
別れは突然に訪れた。いつもの軒先で三人、いつものように遊んでいた。エリちゃんにもうすぐ小学校だねなどと話をしたら、急に曇った顔になったような気がした。
お兄さんは、実は引っ越すんだよ、と明かしてくれた。とっさに二号機はどうなるんだ、と思ったあたいを今のあたいなら殴り飛ばしていただろう。しかしお兄さんはたった三歳、年上なだけなのにそのことを察知してか、二号機をあたいに手渡した。帰ってきたら、またエリと仲良くやってくれないか。
言葉の意味も良く考えずに、あたいは力の限りうなずき、二号機を抱え込んだ。今のあたいならこの糞ガキに飛び蹴りをかましても、良心は痛まないであろう。
エリちゃんに目を向けると、クリクリとした目に、涙が浮かんでいるように見えた。そして、
「三年経ったら、戻ってくるからね。そしたらね……」
その後の告白には、心臓が口から飛び出すほど驚いた。そんなこと、幼稚園の子供が言うような台詞じゃない。
今思えば勝手に、内心そうだと思い込んでいた大勘違い大会だったかもしれない。できることなら、エリちゃんに確かめたい。合体ロボをもう一回合体させようといったのかもしれないし。
三年過ぎても、やっぱり会えなかったし、三年後にはすっかり忘れていた。子供は子供なりの時間で三年をあっという間に、そして長い時間をかけて消費していたのだ。
そんなことをふと思い出したけど、想い出は曖昧なほど楽しく、美しいのかもしれない。と思い直し、また心の奥底に沈めていくのだった。
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